心肺蘇生の役割
救急医療とはまさに“医療の原点”ですが、中でも極限の救急状態とは心肺蘇生が必要な場合です。“心肺蘇生”とは“呼吸や心臓が停止、またはそれに近い状態にある傷病者に対し心肺機能を補助する為に行う救命救急処置”。つまり、具体的には心臓マッサージや人工呼吸等の事です。
医学の進歩とともに、心肺蘇生の方法も日々変化しており、現在では最も大切なのは胸部の圧迫であると言われています。胸部を肋骨越しに胸郭の1/3〜1/2の深さまで圧迫する事により心臓も圧迫されて心臓内の血液が全身に駆出(送り出され)、脳や心臓自身に酸素供給されます。また、圧迫と圧迫の間に、胸郭をしっかり再拡張させる事で全身から心臓へ血液が還流(戻ってくる)のを促します。
方法や考え方は動物においても人間と同様ですが、動物の場合は胸郭の形状が様々であるため工夫が必要となります。例えば胸郭が平坦なアフガンハウンドのような犬や小型犬・猫の場合には横臥位(横に寝かせた状態)で心臓周囲を横から両手または指で圧迫しますが、ブルドックのような胸郭が円筒状の大型犬では仰臥位(仰向け)にし、上から圧迫する事が有効です。
心肺蘇生の成功の鍵はとにかく素早く診断し、1秒でも早く処置を開始する事です。処置の開始が早ければ早いほど、心拍が回復する可能性が高まります。しかし心拍の回復がイコール蘇生ではありません。残念ながら一度心拍の回復を認めても、再度停止してしまったり、多臓器不全や無酸素性脳障害等を起こし、最終的に死亡してしまう場合が多く、心肺蘇生後に通常の生活に戻れる可能性は稀であると言わざるを得ません。これも人間と同様です。心肺蘇生の目標は心拍の回復ではなく、“退院”なのです。